■<夢想流こそ我が命>第10話  「無関心の人こそ大切に」

チンドン屋と他の舞台芸との違いはどこにあるのでしょう?どちらも、何らかの観客を相手に何かを演じてることでは同じではありますが、天と地ほどの違いがあるんです。それは、芸の上手下手などではなく、お客さんとの関係性から見ると、全く別のジャンルであることがわかります。

例えば、チンドン屋が店頭で呼び込みなんかをやってるとします。近くに立ち止まって見てる人が、まあ数人ぐらい、あとは、横目でチラッと見て、通り過ぎる人がほとんどというのが、よくある光景です。そんな様子を、舞台やテレビの芸人さんが見たら、なんとも哀れな、注目度の低い路上タレントだと思ってしまうでしょうね。目の前にいる人全員から注目を受けてるということを第一の前提にするのが舞台タレントですから、こんな、見る人もいれば一瞥もしない人もいるなんていう現場は、まさに論外でしょうね。大道パフォーマンスの芸人さんですら、俺だったら、あっと言う間に注目を集めて大勢の人垣をつくり、拍手喝采だぜって思うかもしれません。

でも、目的は、当日か近日に、その店に客を入れることなんです。芸人への拍手喝采ではなく、主役は店なんです。だいたい、通行人全員に、その店に入ってもらおうなんて、キャパからいっても店主は考えていません。そこでチンドン屋に託されてるのは、一種の、客層の選別なんですね。例えば、パチンコ屋さんの宣伝してるとするとします。目の前を通ってる100人のうち、1人ぐらいではないですか?あとの99人は、そもそも、パチンコなんか全く興味がないか、やらない主義の人たちなんです。で、その圧倒的多数の人たちに聞き流してもらえる演奏や口上、しかも、少しは好感をもって受け止めてもらえるような方向性で努力しないといけないんです。でも、そんな無関心の人たちの友人やら家族にはパチンコマニアがいるかもしれません。そして、100人のうちの1人、元から好きな人は、わずかな情報にも、おや?っと反応しますから、おのずと店に興味をもってくれます。

これは、エレベーターの中で、各階の案内をする係のお姉さんとも共通することです。もしも、いちいち乗客のひとりひとりに押し付けがましいエレベーターガールがいたとしたら?狭い密室で、鬱陶しいでしょう?だから、至近の乗客にも軽く聞き流せる方法でしゃべってますよね。観光バスのバスガイドさんも、明るく楽しい雰囲気ながら、しかも、バスの中に寝てる人の邪魔にもならないように工夫して、マイクでしゃべってるはずです。また、高級ホテルのロビー、ラウンジなどでBGMのピアノやハープの演奏家の方々。彼ら彼女らは、リサイタルを開くような一流の音楽家からは、ともすれば、下に見られがちなんです。でもね、喫茶で会話してるテーブルの邪魔にならず、しかも、ひとりで来て待ち合わせで退屈してるお客さんの気をまぎらわせ、あるいは、音楽好きの客の耳にも聞き応えある演奏するってのは、まさに「高級」な音楽現場なんです。チンドン屋というのは、実は、そういうのとも似たジャンルなんだと思います。だから、高級ホテルのロビーラウンジでのBGM演奏とパチンコ店新装開店時の行列前チンドン演奏とは、静寂と喧騒の相違はあれ、同じ役割の仕事だといえるんです。

また、一見、見てないように聞いてないように思える人でも、案外、よく見、聞いてるもんです。テレビやラジオをつけながら仕事したりご飯を食べたりしてる時を思い起こしてください。興味がある言葉や映像が出てきたらパッとそちらに注目しますよね、それは、ぼんやり聞いたり見たりしてるわけでもない証拠なんです。だから、気をぬけません。大変なんですわ。しかしながら、皆から注目を浴びてないから緩慢な現場だと錯覚し、適当にやればいいんだと勘違いしたり、何をどうやってよいか途方にくれるチンドン屋も増えました。多くは、学校演劇やバンド経験者などですね。ステージに立っただけで観客全員から注目を浴び、喝采をうけた経験が忘れられない人々です。扮装したり演奏したり、一見、同じことのように見えながら、全く違うジャンルだと気がつかなければならないんですがね、とっくに。

で、次回は、たとえステージの仕事であっても、プロの舞台というのは、案外、チンドン屋の現場と変わらないことが多いという話、さあ、どういうことでしょう?

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本日の社長日記
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