■<夢想流こそ我が命>第5話  「背中の効力」

誰だったか、俳優さんが「背中を向けての演技が難しい」というようなことを言っていた記憶があります。それは、いったいどういう意味なんでしょう?

ちょっと関係ありそうな話。満員電車の中などで、いくらぎゅうぎゅう詰めに混んでいても顔と顔が向かい合うのはいやなもので、できるだけ避けようと思いますよね。知らない同士ですからね。でも、自分の肩と相手の背中、あるいは、背中と背中同士なら、接していてもそんなに不快感はないでしょう。状況が状況ですからこのくらいはお互い我慢しましょうとね。それだけ、正面の目線というのは強い力をもっているわけです。

だから、よほど自覚していないと、僕らのような「人を寄せる」稼業の場合、正面向いて頑張れば頑張るほど、人が散っていくことになってしまうんです。
若い女性なんかでも、「今日はナンパされに行ってみよう」という場合、魅力的に着飾るのは当然として、正面きってワアワアとアピールする馬鹿はいません。かえって人は引いてしまいますよね。繁華街やBAR、パーティなんかで声をかけられる時は、必ず後ろから、あるいは横から「ちょっといいですか?」と来ますからね。背中や肩で視線を吸引するんだという感覚、自然に身につけてますね。そこに意識を集中させてると、さらに人を近寄せる所作も色々覚えていくでしょう。

先にあげた俳優さんの言葉の意味もこういうことではないでしょうか?
お芝居の演技というものは、お客さんと一定の距離を置があるから成立している、なのに背中を向けてると、お芝居しようにも、お客さんの意識がぐっと近寄り過ぎてしまってなかなかやりにくいと。反対に、僕らみたいな稼業は、さあナンパされに行くぞ!の積極的な女性以上に、もっともっと背中の効力を楽しんで活用しなければなりません。とはいえ、こんなことをわかってるチンドン屋さんなど、プロにもアマチュアにもほとんどいないでしょうがねえ。

この記事を友達に知らせる
本日の社長日記
ページトップに戻る